僕がまだ学生の頃のお話。
選択式の一般教養の講義の中から「心理学」を受講していた。
僕は理系だったのだが、何分、生意気盛りなお年ごろ。
どうも心理学のアバウトなところが気になり、定期試験の論文で「心理学は科学ではない!」と持論をぶった事がある。
(ちなみに、教授の逆鱗に触れ、単位を落とした・・)
そんな僕も歳とともに丸くなり、「心理学もやぶさかでないな」と思い始めている今日この頃である。
あんなに楯突いて申し訳なかった、教授。しかし教授も大人げなかったと思う。
表題の話に戻ろう。
いよいよ99$のアイトラッキングセンサーSDK「The Eye Tribe」の販売が開始された。
(参考記事: 「視線」でPCを操作!99$の格安アイトラッキングセンサー )
これに刺激され、アイトラッキングへの興味がムクムクと湧き上がってきてしまった僕は、さっそく調査すべく、国会図書館に向かったのであった。
そして見つけた本、「インターフェイスデザインの心理学」という本(教授。僕は心理学の本を読むようになりました!)の内容が実に示唆に富んでいたので、ご紹介したいと思う。
突然だが、次の動画の中で、白い服を着た人達が何回バスケットボールをパスしたか数えて欲しい。
(以下、ネタバレがあるので、まずは動画を見て数えて頂きたい。)
さて、何回パスしただろうか?
・・というのは実はどうでもいい事だった。
皆さんはこの動画の中に、ゴリラが登場したことに気がついただろうか?
実はこの動画を見た50%の人はゴリラの登場に気がつかないそうだ。
(クリストファー・チャブリス、ダニエルシモンズが行った実験)
先ほどの本、「インターフェイスデザインの心理学」では、
「人間はあることに集中していると、想定外の変化がおきた場合、それをあっさり見逃してしまうことがある」と解説している。
アイトラッキング調査についても、これは当てはまる。
以下、本書からの引用だ。
視線追跡データは必ずしも正確ではない。
(中略)
しかしこの技術(視線追跡)は必ずしも正確とはいえません。
その主な理由は次のようなものです。1.視線追跡によって被験者が「何を見たか」はわかりますが、前述のとおり、だからといって「その見たもの」に本当に注意を払ったとは言い切れません。
2.ラーソンとロシュキーの研究によると、周辺視野も中心視野と同様に重要です。視線追跡で測定できるのは、中心視野だけです。
3.アルフレッド・ヤーバスが行った研究では、人が何を見るかは、見ている最中にされる質問に左右されるという結果が出ました。
ですから視線追跡の調査前と調査中にどんな指示を出すかによって、結果として得られるデータを無意識に歪めてしまうことは大いにあり得るのです。
「インターフェイスデザインの心理学」P.20より
続いて、こちらも本書で紹介されていた事例だ。
次の2枚の写真を見て欲しい。
この2枚を見て、まず目が行ったのは牛、背景の景色、どちらだっただろうか?
以下、本書から再度解説を引用する。
(なお、本書内には別の牛の写真が掲載されていたが、見つからなかったため僕が似せて作成した写真を使用している)
みなさんは牛と背景ではどちらのほうに注目しますか?
西洋人に写真を見せると、前景にある中心的なものや目立つものに注目しますが、東洋人では写真の状況や背景に注目する傾向があります。
西洋で育った東洋人はアジアのパターンではなく西洋のパターンを示すので、この違いを説明できるのは、遺伝ではなく文化だということになります。
ハンナ・チュアらとリュウ・チーフィーはこの写真で視線追跡装置により目の動きを調べました。
その結果、どちらの実験でも、東アジア出身の被験者は背景の中心部分を見る時間のほうが長く、西洋出身の被験者は前景の中心部分をみる時間のほうが長いことが明らかになりました。
「インターフェイスデザインの心理学」P.104より
文化によって、人のモノの見方が変わる、ということが示唆された実験結果である。
以前の記事で、3Mのスマホで対象物を撮影するだけでアイトラッキング調査同様の結果が得られるアプリを紹介した。
(参考記事: スマホを使って、お手軽アイトラッキング分析!)
この技術は大勢の被験者の視線をデータ化して、分析のためのアルゴリズムを作った筈だ。
もし前述の実験が正しかったのであれば、アルゴリズム作成の元となった被験者の国籍なども重要になってくる。
(しかしアプリでは、分析対象物がどの国で使うものか聞いてくることは無かったので、文化による差異を考慮していない可能性がある)
「アイトラッキング調査」と聞くと、完璧に客観的なデータがとれると思ってしまうが(僕も今日までそうだった)
上の2つの実験からわかるように、注意点も有ることを覚えておくと良いかもしれない。
実に勉強になった本だった。