香港電脳遊戯 4 ~マカオで大小に挑む~

学生の時に読んだ、沢木耕太郎氏の「深夜特急」。
今となっては、いや、僕が読んだ当時もそこに書かれた世界の様子はどこか牧歌的なものだった。

実際に訪れる香港は高層ビルが立ち並び、インフラの整備された都会。
裏通りに入れば、沢木氏の本に書かれたような日常の片鱗はあるもの、やはり半世紀に近い時の流れを感じる。

たくさんの人たちに海外での旅について憧憬の念を抱かせた、この名著の中で僕が特に気に入っているエピソードが、
沢木氏がマカオを訪ね、カジノに心奪われ、先の長い旅程のなけなしの資金をかけてカジノと攻防を繰り広げる話だ。

沢木氏を魅了したギャンブル、その名は「大小」。サイコロの出目を使った、覚えやすいギャンブルだ。
「カシャ、カシャ、カシャーン」という賽を振る音が耳から離れなくなるほど筆者をとりこにした「大小」。
沢木氏はこの苦境、いや落とし穴を無事乗り越え、旅を続けていく訳だが、僕はこの本を読んで以来、ぜひ自分で体験してみたいと思っていた。

個人的に競馬、パチンコなどギャンブルはやらず、運をかけての勝負などはゲームセンターのメダルゲームくらいの自分が、
はたして本物のカジノでどこまで通用するのか。このまま、ギャンブルに絡め取られ、もう引き返せないんじゃないか・・。
そんな危惧を抱きながらも、怖いもの見たさも相まって、日帰りでマカオに行くことにしたのだった。

香港からマカオまでは高速船でわずか1時間の行程である。
しかし前夜、例のテイクアウトで白ワインを飲み過ぎてしまい、船に乗ったのはもう11時過ぎだった。


ターボジェット。すごく速い。

機内食ならぬ船内食が出たのだが、おそらく中国の本土側製と思われる品質で、カルチャーショックを受けた。
香港内の飲食物はほぼ日本と同じ、もしくはそれ以上のクオリティーだと思うし、それに慣れかけていた僕は不意をつかれた。
日本ではゼリーにつかうような容器にカルキ臭い水が入っており、甘いだけの寒天ゼリー、味のしない謎のパン、
それに付け合せとして、昔なつかしの駄菓子「ヨーグル」みたいなクリームが添えられている。
どれも一口ずつ食べてギブアップしてしまった。


そっと蓋を閉じたくなる味。

さて、マカオに到着。
イミグレーションのゲートに並ぶとこれが長蛇の列。通過に2時間近くかかってしまった。
すでに陽は高く、これではいくらも大小ができない、すこし焦る。マカオに降り立って最初の印象はとにかく排気ガス臭い。
そして、街の様子もどこか垢抜けない。時間的には1時間でいける距離とは言え、国は全く別だ。
香港で契約した携帯のSIMも使えない。野良WI-FIも殆ど無い。Google map無しでマカオに放り出されてしまった。やばい。
行き先のカジノの名前だけは、予め調べておいた。GRAND LISBOA、グランドリスボアという名をタクシーの運転手さんに告げるも、
まったく英語が通じない。なぜか半切れされ、知らない場所で降ろされる。

降ろされたカジノ。なんだか名前も違う。ぜんぜんグランド・リスボアじゃない・・。


Crystal Palace、「水晶宮」。名前だけは麗々しい。

異国のカジノ、それも名も知らないカジノに入って大丈夫か?イミグレーションに時間を取られたため、滞在できる時間は正味2時間もない。
まあ、ラスベガスとか、カジノは逆に安全と聞くし・・ままよと入ってしまった。

さて、中は紫煙たなびく空間。
装飾はなんだか豪華な感じだが、日本人と思われる観光客や白人のお客さんはほとんどいない。
おそらくほとんどのお客さんは中国本土から来た人だと思われる。香港の人とも雰囲気が全く違う。

こわごわといろいろなテーブルを覗いていると、お目当ての大小を発見。
深夜特急の描写にあったように、サイコロに蓋をかぶせると、サイコロを載せた台がガシャガシャーン!と音を立て、
犀の目が決まるようだ。(カジノ内部は当然撮影禁止)

勇気をふるい、空いた席に潜り込む。
隣はやけに親し気にニコニコ話しかけては、肩を叩いてくる初老の女性。よく日に焼けている。どうやら団体の旅行で来ているようだ。
こっちも挨拶ぐらいしたいのだが、全く言葉は通じない。タクシーの運転手さんもそうだったが、マカオでは英語は通じないときはとことん通じないみたいだ。
さて、胸をドキドキさせながら初めてのBETなのだが、またカルチャーショックを受けた。
このおばあさんを始め、かける金額がすごいのだ。
僕がついたテーブルは最小BETがたしか1000円からだったと思うのだが、みんな普通に1万円くらいかけている。
そして、見事はずれ、ディーラーに回収されても大して悔しがる素振りを見せないのだ。中国バブルの勝者を見た感じである。

その後、僕は本でしか読んだことのなかった「大小」をたっぷり体験した。
おそらく日本人の僕は浮いていたのだろう。僕の張りは好調で、「無作為なら数学的には考えにくい勝率」で勝ち、チップは増えていった。
テーブルを盛りたてるムードメーカーとして利用されたのだろう。これがカジノ、である。慈善事業では無いのだ。勝ち負けは作られるのだ。
2時間後、僕はクタクタになって外に出た。タクシーで来た時と反対のエントランスに出ると、目の前にグランドリスボアがあったのだった・・・。


運転手さん、疑ってごめん。

2時間の死闘、神経戦を闘いぬき、結果はどうなったか?それは野暮になるので、ここには記さない。
しかし、マカオで勝率を上げるなら、ガイドブックにない場末のカジノに飛び込んだ方が良さそうなのである。

マカオの犀の目は、数学とは異なった確率で出現するようだ。

次回、感動(?)の最終回






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